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2006年06月 アーカイブ

2006年06月08日

【質問42】能面の般若について教えて下さい

Q:
釈先生 こんにちは。
お忙しいところすみませんが、「般若」について教えてください。
私の祖母は外出する際のお守りとして、小さく折りたたんだ般若心経を懐に忍ばせていたのですが、その事実を知った小学生の頃の私は、言いようのない不安感をいだきました。と、いうのは、当時 能面の般若をどこかで見たことがあり、類推的に般若心経を「何かの悪魔教典にちがいない」と思い込んでいたのです。
その後 齢を重ねる中で「般若とは仏教上で、かなりありがたい言葉らしい」ということは分かってきたのですが、どうして 能面においては ありがたいものをビジュアライズして あんなにエグイ表情になってしまうのか、腑におちないのです。
また 仮に仏教上の般若と、能の上での般若が まったく関係のないものであるのならば、仏教側から「俺たちの大切な言葉と同じ呼び名で、そんなにややこしい表情をつけてくれるなよ」と言ってあげた方がプロモーション上の都合はいいんじゃないでしょうか。
「般若」って一体何なんでしょう。また能との関係はどのようなものなのでしょうか。
能の知識なんて全くない私ですが、何卒 お導きいただきますようお願いいたします。

ペンネーム:そうしゅん 37歳 男性

A/
<釈>
 わはははは、『般若心経』が悪魔経典というのがいいです。
ご指摘の通り、「般若(はんにゃ)」とはサンスクリット語のプラジュニャー、パーリ語のパンニャーに字を当てたものです。意味は「智慧(ちえ)」。この「智慧」の獲得こそ、仏教が目指すものであります。
そして能の面にも「般若」と呼ばれるものがありまして、鬼の面、女性の怨霊を表現する面として使われます。なぜこのようなこわい面を「般若」と呼ぶようになったのかは諸説あるようです。中でも、「能面師の名人・般若坊という人が作る鬼の面があまりにもすばらしかったので、次第に般若と呼ぶようになった説」と「恨み執心している怨霊が、能の中で改心したり悟ったりするので、仏教の智慧である般若と呼ぶようになった説」との二つが有力なようです。
 ところで、「般若という言葉が誤解されないように指摘すべきじゃないか」というご意見ですが、そんなことしようものなら、日本語をことごとく修正しまくらねばなりません。なにしろ「元々仏教用語。現在は誤用されている」という日本語はものすごい数にのぼります。「出世」とか、「自然」とか、「縁起」とか。
 むしろ、そうしゅんさんのように、「へぇ~、これって仏教語だったのか。でも、それじゃなんでこのように使われているんだろ」という疑問が出てくるほど、仏教用語が日常使われているほうがいいのではないでしょうか。

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