Q:
釈住職・内田老師とも麻雀をたしなまれますが、ユダヤ教や仏教ではギャンブルについてどのように考えているのでしょうか?
世間一般には賭け事は「悪いもの」とされているようですが、江戸時代に寺院が寄付を募るために宝くじを発行したりしていますし、仏教ではギャンブルがわるいことなのかな?と思うのです。
「欲で冷静な判断が出来なくなる」から悪いのかな?とも愚考しますが、よくわかりません。冷静に判断して勝てる賭けならば良いことになりますから。
またユダヤ人のように世界に分散している人たちはイチかバチかの賭けを一番やってきた人たちのように思われます。もし安全確実な方法だけとっていたら生き残れなかったでしょう。
ウチの嫁は競馬で勝ってきても怒るんです。負けて怒るのは当然ですが…。なんとか嫁を説得するため理論武装させてくれませんか?
(名古屋市 競馬万歳)
A:
ご指摘の通り、江戸時代には寺社が宝くじを発行したりしてます。また、賭博場としていた例は多かったようです(だから賭博場に支払うお金をテラ銭って言うらしい)。
ロジェ・カイヨワによれば、賭博には祝祭性があるとのことです。
ユダヤ教や仏教の体系において、賭博の禁止はそれほど優先順位が高くありません。やはり、殺生の禁止や窃盗の禁止などのプライオリティが高くなります。もちろん、賭博を勧めるような宗教はあまりないですから(宗教は、人間のあくなき欲望を抑制する方向に機能します)、大抵の宗教における敬虔な信者は、ギャンブルはやらないほうがよいと考えています。また、当然ですが、ユダヤ教の場合、安息日には禁止されます。
ユダヤ人が世界で活躍しているのは、イチかバチかの賭博的才能よりも、むしろ地道な教育の成果と自分達の生活様式を大切にした結果だと思います。まあ、「出エジプト」なんてのは、ギャンブル的要素があると言えるかもしれませんが。
ちなみに、賭博行為に対して厳しく禁止することで有名なのはイスラムです。敬虔なムスリムはトランプなどもしません。数年前、サウジアラビヤでポケモン・カードが禁止されました。理由はカードゲームに賭博性があるからです(もうひとつ、ポケモンが「進化」するからというのも理由となりました。ピカチュウがライチュウになったりするでしょ。進化論はだめなので)。厳密に言えば、酒も賭博もダメなイスラムですが、まあそのあたりはそこそこ楽しむ人も多いです。「豚を避ける」ことよりは、優先順位が低いように見受けられます。
さて、仏教では、いろんな仏典に賭博はやめたほうがよいという知見が説かれています。当然、出家者は賭博禁止です。どうも、インド文化圏では古来、賭博が盛んだったようです。遺跡からサイコロが見つかっていますし、仏典にも各種のギャンブルが出てきます。
ディーガ・ニカーヤというパーリ語仏典群の中に、「シンガーラへの教え」という仏典があります。これは在家者(出家者ではない仏教徒)の生活規範がよくまとめられていることで知られています。そこには「賭博による六つの危難」というのが語られています。
1.勝てば怨みを生む。
2.負ければ財産に嘆く。
3.現に見える財物を損失する。
4.法廷に行っても、その言葉は無効である。
5.友人・知己に軽蔑される。
6.嫁を迎える者・嫁に出す者たちに望まれない。(だから)賭博をする人間は妻を養う資格がない、と言われる。
仏教の戒は「習慣づける」という意味合いが強いので、こういう危険と災難がありますよ、という警句になっています。そういえば、私の弟は大東市の寺の住職ですが、競馬好きです。注意しても、「競馬はイギリスでは高貴な趣味だ」と言い張ります。ここは日本やっちゅうねん。
あら?「六つの危難」には、勝っても負けても損失があるとしている…。どうも相談者よりも相談者の奥さんに分が良さそうですな。
ということで、「嫁への理論武装」ですが、結論として「仏教は役に立たない」と言わざるを得ません。自分の都合に合わせて仏教をつまみ食いすることはよくないからです。むしろ、「ストレス理論」とか「功利主義」などの理論に頼ったほうがいいんじゃないでしょうか。説得するには、そちらを勉強することをお勧めします。
へへ、釈先生も麻雀を持ち出されると弱いですね。
こんばんはウチダです。
さて、私は俗人でありますけれど、聴いて驚くなかれ、ギャンブルは一切やりません(麻雀はギャンブルではありません。あれは「修行」です)。
競馬というのは昔一度だけやったことがあります。
パリのロンシャン競馬場に友人に連れて行ってもらって、こうやって馬券を買うんだよと教えてもらったので、おつきあいで一枚買ったら、これが当たり。
「なんだ、競馬って簡単なんじゃん」と思って、次のレースも買いました。
窓口で「14番(カトゥールズ)」と言ったのですが、私のフランス語の発音が悪かったせいで渡された馬券が4番(カトゥル)。
まあこれもご縁かと思ってレースを見ていたら、14番が一着。
フランスの競馬関係者たちはオレをなめているのか!と激怒して馬券を引きちぎり、それ以来、どのようなギャンブルにも手を出したことがありません。
何の参考にもならない経験談でしたね。すみません。