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2007年06月 アーカイブ

2007年06月20日

質問57・落語のルーツが仏教?

Q:
落語のルーツが仏教と聞いたんですけれど、ほんとうですか?(ペンネーム 浪汗洞)

A:
はい。落語は仏教の「お説教」をベースに成立したという説が有力です。芸能研究の第一人者、関山和夫先生が論証しました。関山先生は「話芸」という言葉を作り出したことでも有名です。もちろん、落語がひとつの形態として結実するまでには、他にもいろいろな要素(大道芸や語り芸の系譜)が交錯しているのですが、やはり基盤は「仏教のお説教」にあったと思われます。
落語の祖といわれる安楽庵策伝は浄土宗の説教師でした。続いて登場した露の五郎兵衛は元・日蓮宗の僧です。
「お説教」で、いきなり仏法を説いてはなかなか聴衆が受け入れてくれません(これは現在でも同じなのだ~。涙)。そこで、まずは面白おかしい話などでオーディエンスをリラックスさせ、場をいい雰囲気にしてから、次第に仏法へとシフトするのです。落語は、その前フリの部分が発達して、別個のものとして独立したかたちと言えます。だから、今でも着物を着た人が、独りで座布団に座ってお話するのです。扇子や手ぬぐいだけを使って。これは、あきらかに僧侶がお説教をするスタイルからきていると思われます。だから、世界中さがしても落語と同じ形態の芸能は無いそうです。
安楽庵策伝は、お説教の前フリとしての落とし噺を、『醒睡笑』という本にまとめています。おそらく『醒睡笑』とは「笑わせて眠りを覚まさせる」という意味でしょう(う~む、気持ちはわかる、わかるぞ策伝さん)。この本には、現在でも語られる「与太郎噺」や「平林」が載っています。「平林」※などは、今、うちの子供がCDで聞いても爆笑していますから、いかによくできた噺であるかがよくわかります。
とにかく、落語をよく聞いてみてください。随所に仏教的な要素を見つけることができるはずです。例えば…、いやいや、もうこの話になるとものすご~く長くなってしまいますので、今回はこのあたりにさせていただきます。

ついでに、少しだけ、「お説教」についてお話しましょう。「お説教」は大きく分けて、講義や講演のように語って伝えるスタイルと、節をつけて歌うがごとく語るスタイルとがあります。これは世界中ほとんどの宗教が両方の形態を有しています。日本仏教では、節をつけて語る手法を「唱導」と言います。かつて「唱導」には「安居院流」と「三井寺流」とが二大流派として発達したのですが、現在「三井寺流」は、ほとんど残っていません(浄瑠璃は三井寺流から成立しましたので、浄瑠璃系統に残っていると言えますが)。安楽庵策伝は、「安居院流」の人でした。
そして、現在、「安居院流」の系統として明確に残っているのは、浄土真宗(正確には真宗。浄土真宗の呼称は本願寺派だけ)の「節談説教」です。節談は「フシダン」と湯桶読みします。「節談説教」は、真宗独特の唱導形態です。その多くは、「讃題(聖典からの引用)」・「法説(仏法の解説)」・「譬喩因縁(面白い話)」・「結勧(話をまとめて結ぶ)」という構成になっています。古来、これを「ハジメしんみり・ナカ可笑しく・オワリ尊く」と指導したらしいです。
実は「節談説教」は、現在かなり危機的状況です。きちんとした「節談」を語れる人がいなくなっています。「節談説教」に対するニーズがなくなったのではなく、近代以降、長年にわたって教団が自粛してきた結果です。講義や講演スタイルが近代的現代的だと判断したんですね(頭悪いなぁ)。
昨年、有志の宗教芸能研究者が集まって、「節談説教研究会」というのが発足しました。え~、私も発起人のひとりでして…(なんでも首をつっこんでるなぁ)。その「節談説教研究会」が、宗派を超えて全国の名人級の節談説教者を一同に集め、7月3日に築地本願寺で「節談説教大会」を開催します。誰でも聞けますし、無料ですので、こういうのに興味がある方はどうぞお越しください。私、時間帯によっては司会してますから(なんでもやるなぁ)。

※物覚えが悪く、字が読めない男が「平林」という姓の医者宅へ使いに行きます。物覚えが悪いのでメモした「平林」という漢字の読み方がわからず、いろんな人に読み方を尋ねてまわります。そしたら奇妙な読み方ばかり教えられてしまうという噺です。
噺の中で「タイラバヤシかヒラリンか、いちはちじゅうのモークモク、ひとつとやっつでトッキッキ」というフレーズがあります。一度聞いたら、必ず覚えてしまいますよ~。私、子どもの頃に聞いたのに、この歳になっても覚えてますからね。


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