: updated 15 April 1999
Simple man simple dream -22
私の見たい正月番組

年末の新聞に年末年始のTV欄の総集編が折り込まれていたけれど、みたい番組がほとんどなかった。だから結局正月番組で見たのはNHKでやった『アラビアのロレンス』だけ。もう5回目くらいだけれど、それでも蜃気楼の彼方からオマー・シャリフの影がゆらゆらと登場するところではやっぱりどきどきしてしまった。

懐旧はさておき、私が見なかった正月の特別番組はだいたいがヴァラエティものであった。これについていささか思うところを述べたい。

ヴァラエティ番組というものの正確な定義を私は知らないけれど、漫才師がゴルフをしたり、歌手が料理を作ったり、野球監督の妻が人生相談をしたり、俳優がクイズに答えたりするところをみると、要するに「本業以外の芸をお見せする」というのがことの本質ではないかと思う。

聞くところでは、堅苦しい伝統芸能であるはずの能楽の世界でも、ときおりシテ方が慣れぬ囃子を、狂言役者がシテを、囃子方が地謡を、というような「とりかえ」の座興で楽しむこともあるという。(たまにやたらに達者な人がいて、本職が青くなることもあるらしい。)こういう意外性が面白いということは私にも分かる。

分からないのは、ふだん本業をやっていない「タレント」さんたちが「本業以外の芸」をするヴァラエティなるもののどこに意外性があり、なにが面白いのかである。

最も人気のあるタレントである「たけし」「さんま」「タモリ」はそれぞれ本業は「漫才師」「落語家」「漫談家」であったはずだが、彼らの本業の芸を見る機会は失われて久しい。(タモリの「四カ国語麻雀」や「寺山修司」は独創的で壮絶な芸であったけれど、もう二度と見ることができない。)

さまざまなヴァラエティ番組で司会をしているのは、たいていが本業は漫才師である。(とんねるず、島田紳介、ダウンタウン、ナインティナイン、ウッチャンナンチャン、ロンドンブーツ、ヒロミ、大竹まことなどなど)けれども、彼らが漫才やコントを演じるところを私たちは二度と見ることができない。(たぶん)

この人々が本業をやらないで、余技(「とりあえず間を持たせる」という芸)だけで食っているというのは、考えてみると変である。

勘違いしないでほしいが、それがよくないと私は言っているのではない。「余技」がいつのまにか「本業」になってしまいましたへへへ、というのであれば、それは仕方がない。君たちにだってそれぞれ事情というものがあるのだろう。私も野暮は言わない。

しかし、ひとつ注文がある。それだったらたまにでよいから「芸」を見せてはくれまいか。つまり、いまの「本業」の「とりあえず間をもたせる芸」ではなく、諸君がこの世界に入ったおりに、踏み台にした「昔の芸」を見せてはくれまいか。

上手いだの下手だの、堅いことは言わない。ただせめて年末年始くらいには、諸君の「余技」で笑わせてほしいのである。私は見たいのである。とんねるずやダウンタウンのぎごちない漫才が。一年に一度くらいいいじゃないか。

しかし、いかにフジテレビがゴールデンタイムに破格のギャラで「もと漫才師たちによる余技の漫才大会」を企画しても、彼らのほとんどは出演を拒否するであろうことは火を見るよりも明らかである。なぜか。

彼らの「余技」が「本業」に比べてまるで面白くないことが確実だからである。彼らだってこんなところで馬脚を出して「なんだ芸なしだったのか」と言われたくはないだろう。

でも変だと思いませんか。

野球選手が音程のはずれた歌をうたったり、役者が下手なゴルフをしたりするのをさんざん笑いのめしてきた司会芸人さんたちが、どうして自分たちがたまにへたっぴな「漫才」や「落語」をしてみんなに笑われるのをいやがるんだろう。いいじゃないですか。ただの洒落なんだから。他人の芸のなさを嘲笑うときにはいつも「洒落」ですませてるくせに、自分の芸のなさを笑いものにすることは受け容れることができないのだとしたら、これはまた洒落の分からない芸人たちである。

ヴァラエティ番組についての憎まれ口ついでに絶対に誰も出演しないであろう番組企画をもう一つ。

「勝ち抜きバンド合戦」。

売れっ子のグループやバンドを集めて音楽の試験をやるのである。

全員に、はじめて見る新曲の音譜(デモテープじゃなくて楽譜だけ)を配布し、バンドのメンバーに1時間だけ練習時間を与える。(メンバー以外は立ち入り禁止)1時間経ったら、一組ずつスタジオに呼んで、審査員の前で生演奏させるのである。

これは面白いぞお。

音譜がちゃんと読めないバンドの演奏はもうぼろぼろ。同じフレーズを弾かせるのだから楽器演奏のテクニックの差は歴然。その一方で、演奏はたどたどしくても説得力のある表現をするグループもある。同じ曲なのに解釈が違って、ロックを絶叫するバンドもあれば、こてこてのバラードにしちゃうグループもある。それぞれのバンドの実力と個性とは、こうやって同じ条件で同じ曲を演奏させればはっきりと目に見える。

これで晴れて栄冠を勝ち得たバンドに「勝ち抜き日本一バンド」の称号を与えるのである。

私の予想では、サザン・オールスターズが初代王者。KINKI KIDSは吉田拓郎や吉田健が参加してけっこういいところまでゆくが、SMAPは音譜が読めない中居正広を木村拓哉が殴ってこれがきっかけでグループ解散。意外にもビジー・フォー(グッチ裕三&モト冬樹)が第二位なんだな、これが。

民放各局はぜひ真剣に検討して下さい。


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